死腔とシャントについて


 呼吸について勉強する際には最低でも知っておきたい項目であるので、簡単ではあるが述べてみる。
1,死腔(dead space)

 生理学的死腔

 健康な人で生理学的死腔は30%位、残りの70%は肺胞まで届きガス交換が行われる。気管や気管支がある以上、解剖学的死腔をゼロにする事はできないので生理学的死腔はゼロにはならない。
 患者管理においては、生理学的死腔がどの位あるのかが大切になってくる。
 解剖学的死腔は通常あまり変化しない。(肺の病変が著しく、肺胞の破壊がひどかったり、慢性疾患で年数の経過しているものは別!)
 肺胞死腔は肺の血流、肺動脈圧など種々の要因で大きく変化する。死腔の増大によって呼吸不全になる患者のほとんどは、肺胞死腔が多くなっている場合であり、その治療は肺胞死腔を減らすことである。

死腔換気率(VD/VT)  VD:死腔換気量  VT:一回換気量

 cf)一回換気量500mlとすると、通常健常人のVDは150mlとされるので、
   150/500=0.3 正常な死腔換気率

VD/VTが0.5を超えると健常人は呼吸困難感が著しく、呼吸器なしでは非常に苦しい。慢性呼吸不全の患者(高炭酸ガス血症を伴う)では緩徐な障害の進行であるのでPH・CO2濃度で換気を調節する呼吸コントロール中枢は機能が低下し、VD/VTが0.5,0.6などで、生活している。

不均衡換気

図を参照のこと(便宜上1回換気量450mlとする)

 300mlの空気がA・Bの肺胞に1/2ずつ 150mlずつ入っている。Aの肺胞に入った150mlはガス交換を行うことができる。しかし、Bの肺胞に入った150mlは血流がないためガス交換を行わずに排出される。
このことにより
300mlの換気が150mlの換気に変わってしまう。
これが
死腔の増大によるものである。

 死腔の増大CO2の運搬に大きく影響してくる。
 CO
2は血管から肺胞内の空気に移動が非常に短い時間で完了する。空気中のCO2はほぼゼロであるので、肺胞では血流中のCO2分圧と肺胞内の空気中のCO2分圧が均等になるように分散し血流中のCO2分圧を40±5に保つ。
しかし、Bの肺胞では血流の途絶があるのでCO
2をもらうことが出来ず、血液中から肺胞を通して吐き出せるCO2の量は1/2となる。体内ではCO2の産生量は変わらないのでPCO2の上昇を来すことになる。

  死腔の増大→PCO2の上昇(ただし、一回換気量が一定の場合。)
          ↓
 しかし通常は代償機能が働くので(代償期)自発呼吸のある人はPaCO
2は上昇しない。健常人は(呼吸中枢が正常な場合)PaCO2が鋭敏にコントロールされているので、0.5mmHgくらいの少しの上昇でも呼吸困難感、窒息感が著明に表れ、それとともに換気量を増加させPaCO2を一定に保とうとする。

 換気量の増加は、Aの肺胞でBの分も代償出来るところまで増加する。今までは150mlずつをAとBの肺胞でそれぞれを換気していたが、Bでの換気が出来なくなったため、Aで300mlの換気が出来るようになるまで(AとBの肺胞で600ml{A 300ml、B 300ml}解剖学的死腔が150mlあるのでVT750mlとなってPaCO2をコントロールするようになる。)=代償期:換気量を増加させてPCO2をコントロール出来る時期。
 正常な場合のVD/VTは150/450=0.33であったのに対し、この代償期においてはVD/VTは450/750=0.6と死腔の増大が明らかとなる。ある程度の死腔の増大に対しては換気量を増加させて
代償することが出来るが、代償しきれないほどの死腔の増大を来すと換気量を増加させることが出来ずPaCO2の上昇となって表れる。→非代償期
 この時期になると呼吸器管理が必要。

2.シャント(shunt)

 日本語で短絡と訳されるシャントとは、心臓から肺動脈を介して肺胞でガス交換せずに肺静脈・心臓へもどる血流のことである。生理学的にシャント血流として知られるのはテベリウス氏静脈、気管支静脈、胸膜静脈等があるが、全体として肺静脈の2〜5%とされている。ここで正常な状態での肺胞でのガス交換について分圧で考えると:

大気圧:760mmHg、37℃での飽和水蒸気圧は47mmHg、空気中に含まれる酸素は0.209(約21%)したがって、ROOM AIRで肺胞に取り込む酸素分圧は
(760−47)×0.21=149.73≒150mmHgとなる。
(このとき二酸化炭素分圧は0)
しかし、肺胞中にはガス交換が終了した古い空気が残っているため
吸入酸素分圧は希釈され100mmHg程になる。
肺胞中での二酸化炭素分圧は動脈血のCO
2分圧とほぼ等しいので40mmHgとなる。このことは二酸化炭素の親水性にある。

V/Q

 ガス交換を行う以前の肺動脈(静脈血)の酸素分圧は40mmHg、二酸化炭素分圧は45mmHg、ガス交換後の肺静脈(動脈血)の酸素分圧は95mmHg、二酸化炭素分圧は40mmHgとなる。
シャントとはこの肺動脈がそのまま肺静脈に入流しておこり、すなわち酸素分圧が40mmHgのまま、酸素分圧95mmHgの血流と混合され心臓に帰り、全身へ送り出されることになる。

このときの混合血流の酸素分圧は(40+95)÷2=67.5mmHgではない!

酸素乖離曲線

 ヘモグロビンの酸素解離曲線を思い出して欲しい。酸素分圧40mmHgの時のSpO2は70%、酸素分圧95mmHgではSpO2は98%
従って (70+98)÷2=84%・・・SpO2が84%これは正常か?
SpO2が84%の時、酸素分圧は60mmHgに満たない
 もちろんこれは理論上のことであって、実際にはシャント血流の割合が問題になるところであるが、臨床上ではしばしば、ARDS・IRDS、心房中隔損傷など、また、肺炎・無気肺で日常接しているので再考する余地があるであろう。


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