まず、簡単な肺胞の解剖を・・・が、読者は医療者だから無用と思うが、図のようにあたかも脳血管の補助血流のような空気の逃げ道が肺胞にも存在する。もちろん図のように離れてはいなくて、これらが蜂の巣のようになっているわけである。まずはこの(詰まった肺胞の)隣りの健康な肺胞を元気づけてやる。つまりここへより空気を送ることで補助の管を開通しやすくしてやりながら、なおかつ肺胞を揺すりながら再拡張しやすくする。(初めて膨らますゴム風船は揉んでやると膨らましやすい。)
理論は難しそうに見えるが、実際はそうでもない。要は肺胞を揺さぶって、再拡張するだけ・・・
血管系を除いた肺胞と気道を示す。慢性気管支炎では気道が浮腫を起こし狭くなっているが、肺胞は破壊されていない。肺気腫では破壊がひどく、肺胞隔壁や網細血管の消失があり、肺胞が一緒になって大きな死腔を形成している。 |
[1]揺さぶる:面のタッピングでもいいし、その部分の肋骨弓を保持して前後に細かく揺さぶっても良い。(もちろん体位は術部が上)
[2]喀出:スクイージングの要領で、呼出を強調する。患者の喀出力が弱い場合には呼気に合わせて急激に圧迫を加えてサポートする。このとき圧迫の程度は患者の胸郭の可動範囲にとどめる。聴診し、気管分岐部周囲にまだ残っているようであれば吸引カテーテルにて吸引する。
[3]再拡張:これこそ簡単!先に述べたスクイージングの後にそっと力を抜くのでなくて吸気が始まったら急に力を抜く。すると肋骨の元に戻ろうとする力でその部分の胸腔内は他の部分のそれより陰圧になり、より吸気が流入しやすくなる。
この動作を繰り返すことで可逆性の無気肺は再拡張される。大切なのは再発の予防である。なってしまったものは仕方ないが、せっかく再拡張した肺胞が再び無気肺になってしまうこともしばしばである。しばらくの監視は必要であろう。
この動作はスプリングアクションというが、この手技はネブライザの薬液を目的箇所に運ぶのにも適しているので必要な患者には行う意味がある。
仕事上、喘息や肺気腫の患者を施術することもあろうが、このときの注意点として、喘息に対してはタッピングは禁忌と言うのは周知の事実であるが、スクイージングについても胸郭の可動最終域まで持っていかないことが大切である。最後まで絞ってしまうと攣縮により次回の吸気が末梢肺胞に到達できないことがある。喘息患者に対するスクイージングは「呼吸介助」のつもりでやるのがちょうどよろしいと考える。
肺気腫患者に対しても同じことが言えるが、もう一つつけ加えると派手なスプリングアクションを行わない、スクイーズはゆっくりと行う。肺胞壁が薄くなっているので、容易に圧損傷を起こしやすいからである。
両者に限らず、これらの手技は一時的にも胸腔内圧を上昇させることになるので、モニター監視しながら行うのが原則であるが、モニターされている患者ばかりではないと思われるので、静脈還流の低下による血圧低下、脳圧の上昇などにも注意して行って欲しい。