さあ、評価して患者の状態が把握できた。具体的な症状が現れているときにはその症状に対してアプローチするわけだが、肺理学療法の真の目的は、予防と早期発見である。ここでは、具体的な症状(無気肺、痰の異常貯留など)以前の問題に対しての対処を示唆したい。もちろん実際に患者を触るまえに医師とディスカッションすることは不可欠である。
どこまで動かしてよいのか? 呼吸負荷の限度は? 循環負荷の限度は? 脳圧は? 不整脈については? 喘息患者については触るだけで気管支攣縮を誘発する場合も多い。担当医と充分にディスカッションすることは重要である。

 ROM(関節可動域)・筋緊張の亢進について

 ROMの制限については、ベッドの位置を工夫して患者が万歳出来たり、患者の頭方に術者が立てるようにするのが望ましい。意識のある患者の場合は指示で万歳の格好(屈曲方向・外転方向)や、頸部の捻転・前後側屈をさせ、可動域が足りない部分は力を抜くように指示しながらストレッチを行う。意識状態が悪かったり、自動運動不能な場合は、同様の運動を術者が他動的に行う。この時は可動域やその関節に関係する筋群のツッパリに注意し、やりすぎないようにする。
 肺は、肋骨に囲まれた臓器であるので、体幹のローテーションも出来れば行いたい。もちろんその動作自体が禁忌の場合もあるはずなので医師とのコミュニケーションは取っておくべきである。

体幹筋のストレッチ  肩甲帯が動かないように、片手で一側の肩関節部をホールドし、もう片方の手で骨盤か図のように屈曲させた膝を反対方向に引っ張り体幹を捻転させる。広背筋、腰方形筋、肋間筋群のストレッチに有用である。

 筋緊張の亢進に対しては、その筋の起始停止部を固定しストレッチする方法(ROMと同様)、掌の下半分で行う揉捏法(マッサージ)がある。

 皮膚のツッパリについて

 呼吸を抑制するほどの皮膚のツッパリとは、呼吸運動が小さい(息が浅い)為に胸郭表面の皮膚・軟部組織の柔軟性が失われ、二次的に呼吸運動を阻害する因子を作るもので、よく見られるのは頚髄損傷患者や調節呼吸から脱却しCPAPの状態が長い患者などである。スキンローリングやオイルマッサージが一般的で、要するに定期的に胸郭の皮膚をずらすようなマッサージを行う。これは清拭の時に一緒にルーチンで行うのがベストではないだろうか?

 異常呼吸パターンについて

 上記の筋緊張が緩和されても、呼吸パターンに異常があると、再び筋緊張の亢進が助長されるので、パターンの正常化が必要である。正常呼吸パターンとは、最も効率よく肺の生理的な作用(分泌物の移動・痰の喀出)を行いやすい動きであるので、早期に獲得したい動きである。
 方法としては、先ず患者の呼吸(直接胸郭に掌を乗せて)を感じとり、次に患者の呼気に同調して心臓マッサージの要領で体重を乗せながら呼気を介助する。
胸郭の吸気運動を感じたらゆっくり体重をはずす。この手技をスクイージング(絞ること)という。胸郭の動きについては図説に示す。

スクイージング:肋骨

 胸郭は矢印のように縮んで、矢印の反対方向へ拡張するが、患者は長年の生活様式や、疾患により、変形したり、また、筋の短縮などにより肋骨の動き方は千差万別である。唯一の患者の胸郭の動きの把握の仕方は、患者の呼吸に合わせて胸郭においた手で少し圧迫を加えてついていくことである。 慣れることが、、もちろん一番であるが・・・

 この手技は上にも述べたように肺の生理的な作用を助長するので陽圧換気によって痰の主気管支部への運搬が妨害されている患者においてはタッピングよりも自然で有効な場合も多いので、有用である。
 腹式呼吸が以前出来ていて、挿管によって上胸部呼吸が優位になっている患者については、呼気時に剣状突起から4横指程下の部分を手掌で呼気に合わせてゆっくり圧迫し、吸気が始まる直前になお深く瞬間的に押し横隔膜の伸張反射を利用して横隔膜収縮を誘発する。横隔膜呼吸が持続すれば患者の呼吸努力は減少し、肋間筋のリラクゼーションを容易にさせるだろう。

仰臥位のスクイージング1〜2
仰臥位のスクイージング3  上の図は、背臥位での上胸部のスクイーズである。左→右へ上胸部を呼気に合わせて押し込んでいる。
左図は違う角度から見た様子であり、力の方向の矢印である。

側臥位のスクイージング1〜2
側臥位のスクイージング3  側臥位での下胸部のスクイーズである。バックの升目でスクイーズ開始から終了時の胸郭の沈み込み方を比較して欲しい。健康な胸郭はこれほど柔らかい。
左図は違う角度からである。

腹臥位のスクイージング1〜2
 腹臥位でのスクイーズである。下側肺障害患者にとって有用である。

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